1 : 香港

2010.09.02第一歩~Day:1 HongKong~
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正直に言うと、僕はへとへとでした。

僕は、何でもすぐその気になってしまうので、思った瞬間、もう行動している事がほとんどです。

それを「行動力がありますね」とおっしゃってくれる人は多いのですが、後先をまるで考えないので、ただ無鉄砲なだけです。

「後でビビるなら、やりたがるなよ!」と自分自身に怒りたくなりますが、こうでもしないと、何もやらなくなってしまうので。

困ったものです。

 

その結果、今回も出発直前まで、多忙を極めました。

「たかが旅行の準備だろ?俺達ぁ毎日働いてんだ、べらぼーめ!」という方、おっしゃるとおりです、すいません。

ですが、今回はこの企画と、サイト、そして、旅の準備とお世話になっている方にご挨拶、とやっている内に、僕は本当に身も心も疲れ果ててしまいました。
 

おそらく1月からの資金集めからも含めた、「慣れない事をやり続けた8ヶ月分の疲労」なのでしょう。

なので、今日、希望通りのホテルを見つけて、チェックインするまで、その瞬間まで、僕はバックパック以上に重い物を、背負ってました。


ですが、そのヘロヘロを吹き飛ばすほど、香港という街は魅力的です。

今回、香港で泊まるホテルは、日本で予約して行きませんでした。最初の最初からつまづくと、調子が狂いそうなので、せめて最初の宿くらいは、と思ったんですが、しませんでした。

 正確に言うと、僕が泊まろうと思ったホテルには、そもそもネット予約というものが無いのです。


 

香港にはバックパッカーなら誰もが知っている宿があります。その名も「重慶大厦」チョンキンマンション。

入り口には「HeyBoss!」と呼びかける、何かの客引き
 ありとあらゆる安宿がひしめき、カプセルホテルのようなシングルや、ドミトリーと呼ばれる相部屋まで、千単位のベッドがある、有名なビルです。

 1F、2Fは様々なお店が軒を連ね、アフリカン、インディアンをはじめ、あらゆる人種がたむろし、夜の雰囲気は結構怖いです。







 

  


 そこで、今回は、チョンキンのすぐそばにあり、値段も同じくらいという「美麗都大厦」ミラドーマンションにしました。

 しかもミラドーの方が入り口エレベーターに警備員もいて、道路の騒音も少ないと言います。ま、混沌とした物をめる上級者はチョンキンの方が良いのでしょうが。初心者の僕には、こちらが良いでしょう。


 しかし、今更ながら、インターネットというモノは、恐ろしいですね。

 今回、航空券に始まり、ビザ、予防接種、旅行保険、装備品の購入、そのほとんどをネットでやりました。

 ミラドーへの行き方も、複数のサイトの情報をつなぎ合わせて「空港降りたら、右手のバスターミナルへ。ロータリー向かって左後ろに券売所。HK$33でチケットを買い、A21のバスに乗る。チムサーチョイ下車。降りた側の通り1ブロック先」とまで分かるんですよ?便利なこと、極まりないですが、少し味気なさも感じますね。

 しかし、油断して乗り過ごしては、と窓の外を注意して見ていたら・・・いやでも、ここが降りるべき所だと分かりました。

 降車すべきバス停にはすでに7、8人のインド人の「客引き」達が待っていて、車内にバックパッカーを見つけると、まだ停車していない、バスのドアに駆け寄り「待ってたよ、遅かったじゃないか」とばかりに、手を差し伸べて来るのです。

 これも、ネットでの予習済みの「チョンキンホテルのインド人客引き」でした。何もかもインターネット通り。しかし、30分以上付きまとわれた人もいるとかで、完全無視がセオリーのようです。

案の定、僕にも、ハグせんばかりの勢いでインド人が寄って来ました。

「ミスター、君の為に最高のホテルを用意したんだ。綺麗で、安くて、コンフォタブルだ、フレンド。僕が君の為に安くするから、今から行こうぜ、ベストフレンド」わずか、これだけのコミュニケーションですでにベストフレンド。恐るべし、チョンキンインディアン。

もちろん、一切返事をせず、わき目も振らずに人々の合間を縫い、ベストフレンドに永久の別れを告げ、走行中のバスの中から位置を確認しておいたミラドーへ。

 

やはりここにも客引きが・・・


ま、怪しくないか、といえば怪しいです。

おそらくネットで調べてなかったら、入りません。

というより、ここがホテルだ、なんて分かりません。



 

  エレベーターそばにいる警備のおばちゃんが、「5Fがグッドだ」と言っていた「らしい」ので、とりあえず5Fへ。ホテルになっているのは、3~14Fのようです


 

 

mirador5F


5Fで降りて左右を見回すと・・・とてもではないけど、ホテルには見えない風景が。

 良いのです、ここはゲストハウスであってホテルではないのです。


 

 

 

 

 

 

 さて、とりあえず手前から、つぶして行きましょう。目標は、そこそこ綺麗で、HK$150以下で、タダで無線LANが使える部屋です。

 1HK$は日本円にして11円ほどです。両替所によってレートが全然違いますが。

 

 と、正面の壁に「来来賓館」の文字が。

 実は、ANAの機内で入国カードを記入する際に「ホテル名だけでも良いので、香港での滞在先を書いた方が良いですよ」と言われ、覚えてるゲストハウスの名前を書いたのですが、それがこの「LoiLoiGuestHouse」なのです。

 

  これも何かの縁かと、事務所(と書いてある部屋)に行き、ご飯を食べていた女性に部屋を見せて欲しいと、お願い。

 まさに、セミダブルのベッドの幅に合わせて作ったような部屋。アコーディオンドアで仕切られた先には、便器と洗面台。「シャワーは?」と聞くと、便座の上の位置にシャワーヘッドが・・・。「浴びたシャワーのお湯で、トイレ掃除まで出来ますよ」システムです、きっと。

 これが香港のコンフォタブルです。
 

 ま、僕のこれからには、あのインドが待ってるんです。さすがにこんな事にはビビりません。問題は、値段と無線LANです

「値段は?」

『何泊?』

「3泊」

『1泊HK$150』

「・・・Wi-Fi使える?」

『使える』

「タダで?」

『タダで』

えーっと、うんと・・・「泊まります。」

 

決まってしまいました。さすが、僕の脳が勝手にチョイスした、ゲストハウス。

 

はい、こうして、記念すべき最初の宿は、美麗都大厦来来賓館となりました。


ここで、やっと一息です。 

背中の重い荷物を降ろすと、僕の中にずーっとあった、いやなモノも、どこかに行ってくれました。



とりあえず、無事にスタートを切れました。皆さんのおかげです。

さて、明日からはいよいよ、おくりものを渡す相手を探しませんとね。



2010.09.03優しい優しいアショク~Day:2 HongKong~
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香港という街は、とてもとても複雑です。

新しいものと古いものが、溶け合っていて、数多くの人種が、様々な目的でそこにいるようです。

 

二日目は運よく、香港に住む知り合いに会え、朝から夕方まで、ずーっと彼が案内してくれました。

とてもとても親切な彼の名は「アショク・マブバニ」60歳過ぎの、小柄でよく太った男性です。広東語と英語を巧みに操る彼は、本当に親切で少しでも「アレは?」と興味を示すと「よし、連れていってあげよう。あれはね・・・」と詳しく教えてくれます。

道で地図片手に困っている観光客がいると「どうしました?」と声をかけ、丁寧に丁寧に教えてあげます。

彼はとてもとてもアクティブなので、この一日で実に多くのものを見ることが出来ましたが(歩いた歩いた!)、それを僕の拙い文章で、くどくど説明するのは実に野暮な気がするので、いくつかの写真でご案内します。


 「朝ごはん食べた?」

 「いやまだ」

 「何食べたい?」

 「お粥!」

 しかし、まぁどんぶり山盛りです





                        「長麺」という、お米で出来た生地を巻いたモノ

             これにラー油(びっくりするほど辛い!)をかけると最高に美味しいです


 ここで彼は、注文が出来ずに困っていたインド人の5人組に話しかけます

彼らはベジタリアンだというので、実に丁寧に料理の説明をするアショク

本が一冊書けるんじゃないか、ってほどに



 




 シェラトンホテル、ガラス張りのエレベーターより

 「タダなんだから、遠慮しなくて良いよ!」と三往復

 右手奥に見えますのが、香港島でございます











ここでスターフェリーに乗って、香港島に渡ります。

沢木耕太郎さんの「深夜特急」に出てきた、有名なフェリー。料金、HK$2。



今にもジャッキー・チェンが走って来そうな路地 


後からサホハン・キンポーが「おい、待てよー」てね









  かと思えば、となりにこんなビルが建ってたりします

  

  不思議と違和感は、まるでありません









 でも、いまだに、足場は竹


 建築現場の足場を扱っている友人が見たら、なんと言うか









  交通手段は実に豊富です


  一目で気に入ってしまった路面電車、と、空港から僕を運んでくれたバス







 

 

 

 

 と、ここいらで、朝、僕がネットで調べた京劇のチケットを買いに、劇場窓口行く事にしました。

 これは、俳優修行&プレゼントリレーの旅ですからね。

 窓口で係りの姉さんと、広東語でやりとりしてくれるアショク。何やら、長く話してます。

 「君が観ようとしているのは、広東オペラの、唄だけのコンサートだったよ。ただ唄うだけ、オペラじゃない。」

 こりゃ、困った。京劇そのものじゃないのか、うーん・・・またアショクはまた、姉さんと広東語でやりとり。一言も分からないけど、彼が僕の為に良いものを探してくれてるのは、よく分かります。

 「OK、ちょっと遠い劇場だけど、今夜やっている広東オペラがひとつだけある。二日だけの公演の二日目だから、君の為にあるんだね。」と手配してくれました。席はA、B、C、D、E、とあり、HK$280,2220,160,120,80。C席を1枚購入。

 親切なアショク、紙に劇場への行き方を書いてくれて「これをタクシーの運転手に見せればOK」と。本当にありがとう。


 京劇の劇場に、都合よく若手俳優等、おくりものを渡す相手が来るとは思えませんが、舞台に出ている若手を楽屋口で捕まえたり・・・なんとか方法が・・・・考えれば考えるほど、不安になってくるので、止めました。とりあえず、行ってみましょう。

 

 夕方、アショクと別れ、開演までの時間を、「廟街」テンプルストリートのマーケットへ。

 ここも、「深夜特急」で出てきた有名な露天です。


 ←露天のはじまり





                       中に入るとこんな感じ→


 左右に露天がひしめき合ってます



 ありとあらゆるものが売ってます。服、食べ物、おもちゃ、アクセサリー、仏像、Tシャツ・・・・


 

 こんなものまで・・・・



 Oh My God!









 夜の街を後にして、劇場へ






 






 と、随分長くなってしまったので、京劇観劇編はまた別で。

 

 結論から言ってしまうと、京劇役者さんは皆、結構年配の方たちで、出待ちの人々、搬出を急ぐ人々で、楽屋口はひしめき合っており、役者さんには会えず。

 おくりものを渡す相手は見つかりませんでした。

 なんとかしなくては、と、ロビーにおいてあった、様々なチラシの中に、香港演芸学院の発表会のチラシを発見。 が、公演は9/4の12時。場所はかなり遠いようです。

 今は9/2の23:00、僕の香港滞在予定は9/4の14:10まで・・・・滞在を一日伸ばせば・・・


 またもや、不安が僕を襲います。   参ったなぁ。


2010.09.04京劇観劇リポート
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さて、香港2日目後編。「京劇観劇レポート」です。

 

 

 

 

 

劇場につくと、案の定、お客さんはお年寄りばかりです。

まぁ想像はしてましたが、見事なまでに若者はいません。

あわよくば、若者を見つけ、京劇について聞きたかったのですが、本当に一人もいません。

では、ご年配の方に聞けばいいじゃないか、という感じですが、思いの他、香港では英語が通じません。

つい最近までイギリス領だったのだから、と、お店でも当たり前のように英語で話しかけますが、年配の人のほとんどが、若者でも半数くらいしか、英語が喋れません。ちょっと意外でした。



 







仕方なしにチラシの裏に、広東語で書いてあるストーリーを読みます。

「・復国義士・・伺機復国・・・本為復国英雄、因失手・・・八年後・・・巧施妙計・・・将二人救出・・・一年後・・・・・・計行反間
・・・機密資料・・・伺機復国・・・意合情投」

・・・うん、うん。とりあえず、8年と1年、時が流れるらしい。

まぁストーリーなんて二の次さ、と思っていると突然、広東語で話しかけられます。

チラシから顔をあげると、そこには首から一眼レフをぶら下げたオタクっぽい中年男性が。

彼は壁に張ってあるポスターを指差し「☆■×○・・・」

「すいません、広東語分からないんです。」

するとすかさず英語で「あのポスターの右側の女優ってさ、前に・・・」

「いや、ごめんなさい。観光客なんで・・・」

「あ、そう。」と間髪いれずにに隣のおばちゃんに「あ、すいません、このポスターの・・・」

んーどこの劇場にもマニアックなお客様はいらっしゃるものです。だけど、なぜ劇場に一眼レフ。ひょっとして舞台の撮影可能・・・な、ワケはないですね。

しまった、せっかく英語喋れる人を見つけたんだから、彼にストーリーを聞けば良かった!と、彼が離れて行った後に気づく那俄性。

どうしよう、彼を追いかけて教えて貰うべきか?うっかり聞くと「僕のお気に入りの女優さんはね・・・」と長い話が待ってそう。

ふと、後ろを見ると、クロークに聡明で、優しそうな男性が。まだお客さんもまばらな事もあり、非常に暇そうです。

・・・どうしようかな、彼は英語出来そうだな・・・でも迷惑かな?とかなり迷いましたが、思い切って彼の元へ。

「すいません、英語しゃべれますか?」

「はい、少しですが・・・どうしました?」

「申し訳ないですけど、今日のお話のストーリーを教えて頂けますか?」

「えー、あぁはい。」と僕の持っていたチラシの裏を読み出す彼。

「えーっと、これは・・・かなり難しいですね・・・」と随分困惑してましたが、ごく簡単にですが、と説明してくれました。

とある所に、憂国の英雄がおりました。彼と、彼の娘は、復国の機会を伺っていましたが、志半ばで英雄は捕らえられてしまいます。
8年後、娘とその婿が、策を練り、見事英雄を救出します。

ふんふん、なんだ分かりやすいじゃないですか。それで?

「ここからは・・・あーうんと、とっても込み入ってます・・・あぁ僕には無理ですね、ごめんなさい。」いいですよ、ここまでで
かなりの内容を把握した気がしますもの。で?

「で・・最後は機密文章を取り戻して、ハッピーエンドです。」・・・うん、随分端折ったな・・・いや、ありがとう、良く分かりました。

「すいません、うまく説明できなくて」と彼は見た目どおりの好青年でした。英語で書かれた解説書があったら、お席までお持ちしますので、座席番号を教えて下さい、と彼。ご親切にありがとうございます。



 ほっと一安心。

 さて、劇場へ。

 

 

 思ったより広いです。

 キャパは1000人くらいかな?

 

 

 

 お客さんの入りは、かなりまばらですね。中央部分が7割方埋まってるくらいで、後は空席が目立ちます。

 木曜日の夜なので、これでも入ってる方じゃないんでしょうか?

  と、開園5分前くらいに、突然二胡の音が。S席がHK$280なのに、生オケとは!果然わくわくして来ます。

 

ミュージカルで言うところのオーバチュアが始まり、開幕。

舞台上には、あの京劇独特のメイクと髪飾りの女性が。他、舞台装置等は、現代の演劇とほとんど一緒ですね。

ですが、ここで、いくつか気になる点が。

 

*以下、舞台のマニアックな話になります。興味ない方は、*まで飛ばして下さい。

 

まず、役者がワイヤレスマイクを使ってる!何かと言いますと、よくバラエティ番組で芸人さんが、水に入る前におもむろに腰から外してるアレだと思って下さい。ミュージカルの場合は、マイクヘッドが極端に小さく、それを顔のどこかにつけるのです。TVで宝塚の映像等をご覧になった事がある方は、ご存知かも知れませんね、口のあたりにピヨっと出ているアレです。
さすがに、マイクヘッドは見えないように、うまく隠してますが、一声聞けば完全に分かります、これはマイクにのった声です。
日本の歌舞伎や狂言でも、ワイヤレスマイクって使ってるんでしょうかね?ちょっと、びっくりでした。

ここで、舞台に詳しい方なら「おいおい、ワイヤレス使ってるか、とか、生オケか、なんて客席に、音響操作卓が、あるかどうかで分かるじゃないか。」とおっしゃるかも知れません。その通りです。ところがどっこい、客席に音響さんいないんです。なので、客席後方の、部屋の中から操作してるんです。
ワイヤレスの場合、他の役者さんとの兼ね合いがあるので、マイクのスイッチは、ずっと入りっぱなしではありません。芝居に応じて音響さんが、瞬時にマイクのスイッチを上げたり下げたりしてます。全部のマイクを操るこの操作が、実に大変なので、音響さんは、お客さんのスペースをつぶしてまで、客席にいるのです。

おそらく旅公演のように、乗り打ち(その日に設営、その日に撤収)なので、経費や設置時間の節約なんでしょう。ちょっと、操作ミスが目立ちましたが。

そして、照明。
スポットライトや、ムービングライトのない、地灯り(舞台全体を明るく照らす)だけなのは、思ったとおりだったのですが、
袖を見てびっくり、サイドスタンド丸見え!
注釈が多くて恐縮です。サイドスタンドとは、袖(左右の役者さんが舞台に出入りする所)の中に仕込む照明の事です。上からの灯りだけでなく、横から役者さんを照らすのに使います。もちろんこれは、お客さんから見えないように、袖の中にちゃんと隠すものなのですが、これが丸見え。
隠そうとしてるけど、ちょっと見えちゃった、ではなく、堂々と半分以上、舞台に入っているのです。
しかも、「ころがし」と呼ばれる、地べたに直接置く照明においては、舞台の上に完全に出ているので、側を役者が通る度に、衣装が真緑に染まるという・・・

いいのか? まぁいいのか。

でも、装置は思ったより立派です。現代風な大掛かりな仕掛けや、高度な技術こそないものの、色の配色が綺麗な、奥行きを感じさせる装置でした。 使用している刀が、金属ではなかったのが、少し残念でしたけど。


 

はい、本編です。音楽が実に綺麗です。二胡や鐘の音、打楽器と弦楽器の融合が素晴らしいですね。そして、歌。おそらく、歌というより、狂言のような唄いに近いのでしょうが(こっちが本家ですかね)女性は台詞も唄もファルセットのような独特な調子です。

誰が何役なのかは、実に良く分かります。娘役は衣装の配色が実に鮮やかですし、主役の女性は着物と、髪飾りがこれでもか、と豪華です。
そして、おそらく古典の型が決まっているのでしょう、身のこなしと、何よりも音楽ですぐに分かります。
三枚目が登場する時は、テンポの良い曲になり、悪役が登場する時は、やかましいくらいドラや鐘が掻き鳴らされ、のっしのっしと登場します(ちょっと海原雄山みたいに)。

 この悪役、衣装もですが頭の上についてる触角のような飾りがとてもハデです。触覚入れると身長3m超えます。
どうみてもカミキリ虫です。

さて、せっかくクロークの彼に教えて貰ったのです、僕は必死でストーリーを追います。

憂国の英雄とその娘、妻がいます。そして、その娘に思いをよせる二枚目、それを茶化す三枚目。
英雄の失脚を願う悪役、この6人がメインキャラのようです。

 

 物語はスローペースながらも、ちゃくちゃくと進んで行きます。

 

 「お父様、私は憂いております」「泣くな娘よ、今は時期を待とう」「(母)あぁどうしたらいいのでしょう」

 「(二枚目)おぉ愛しい君よ、今日も逢いに来たよ」「あぁ、私も逢いとうございました」「(三枚目)よ、よろしくやってますなー」

 「(カミキリ虫)がっははは、お前の夫も、もうおしまいよ!どうだ、このワシの物にならんか」「(母)何をおっしゃいます!」

 てな感じで進んでいた(ように思いました)と、突然、拍手と共に幕が閉まり、客席が少し明るくなります。

 休憩?なの?全然、なんでもない普通のシーンで突然幕閉まったけど?

 出て行くお客さん達。どうやら休憩のようです。

でもこれで、前半終了なら、お父さんはそろそろ捕まらないと、先に進まないよなー。きっと幕が開けたら「あぁお父さんは捕まってしまったわ」なんて所から、始まるのかな?

 なんて、思ってたら、幕が開き後半スタート。
 
 舞台は、先ほどまでの豪華な家とは大違い、山奥の貧しいあばら家です。「おし、正解!これは『お父さんが捕まってしまって、こんな山奥で貧しい暮らしをするハメになったわ』に違いない!」と客席ガッツポーズの那俄性。
 
 舞台は、案の定、そんな感じで進んで行きます。

 「(娘)あぁ、お父様は無事にいるでしょうか?よよよ」「(二枚目)あぁ愛しい君よ、今日も美しい」「(娘)あぁ貴方、今日も来て頂けたのですね」「(三枚目)よ、ご両人!相変わらずですな」「(母)あなた達、こんな時に何をしているのです!」

 「(母)あぁ、この国は、そして囚われの身のあの人は、どうなるのでしょう!」「(カミキリ虫)がっはっは、まだそんな事を言っているのか!いい加減、ワシの者に・・・」

 なんて事が、行われます(たぶん)。そして、主役の女性(母)が舞台上で独り、悲しみの場を表現します。
  
 この主役の女優さん、とっても上手いです。言葉もストーリーもいっさい分からなくても、たたずまいや、身のこなし、この人がうまいのだけは、何よりも良く分かりました。
 この人の唄は伴奏とバッチリ融合してて、実に素晴らしいのです。おそらく五線譜の上に書くような音楽ではないのでしょうが、オケの人達も、彼女の唄だと実にのびのびと弾きやすそうに演奏してくれます。
 
 かなりルーズなお客さん(携帯で話すは、途中で出入りしまくるわ)でしたが、彼女の独り舞台の時は、びしっと会場全体が集中させられてた感じでしたね。

 はぁーやっぱり上手い人ってのは、誰が観ても上手いんだなー。素晴らしいな・・・。

 なんて見とれてると、陽気に唄いながら「何を泣いてるんだい、我が妻よー」てな感じで、お父さん登場。

 「捕まってないんかい!」と突っ込みそうになるのを、必死で堪える那俄性。

 え?ここまでストーリーを、完全に追ってるつもりだったのに?!え、え?じゃ、いつ8年経つの?誰が捕まるの?え?
 と、思ってると、大きな拍手と共に幕。完全に明るくなる客席・・・終わり?!

「ただいまから15分の休憩を・・・」え?今ので前半?ぢゃさっきのは、1幕1場と2場の間?舞台転換の時間って事だったの?

 意外な事続きでしたが、まさか19:30開演で、21:00に15分の休憩が入るとは・・・いったいいつ終わるのでしょう?
 

 そして、誰がどこで捕まるのでしょう??

 トイレがてら、さっきのクロークの青年の所へ

「あぁごめんなさい、英語の冊子なかったんです」

「いや、良いんですよ。それより、ストーリーが・・・」

 「・・・それなんですけど、さっき僕が言ったのは、この話のインサイドストーリーのようなものだったみたいで・・・」

「え?」

「ほら、会場見て分かると思いますが、ね?京劇観るのって、お年寄りばかりなんです、だから・・・」

 そう、彼もこの話のストーリーを知らなかったのです。劇場の係員であって、演者じゃないですものね。

「京劇はすごく長い話で、今日はこの話のこの場面、明日は・・・という風にやるんです。だから、ストーリーを追うのは、かなり大変ですね。でも良い体験になると思いますよ」

「えぇ、とっても楽しんでます。どうもありがとう」

「そう言って頂けて嬉しいです」

  素晴らしい好青年!本当にどうもありがとう。

 
 さて、ストーリーをきっぱり諦めた僕は、もう一つの興味、オーケストラピットへ。おもむろに覗くと、やはり五線譜の楽譜は見当たりません。

 が、楽譜のようなものすら、ありません。あるのは、広東語の書かれた台本だけ。これが、楽譜なの?と一瞬思いましたが、全ての奏者が同じモノを使っているようなので、やはりこれは、台本なのでしょう。しかし、その台本をよーく見ると、台詞の横に線が引かれてます。

 この線は奏者によって違います。つまりは、楽譜なしのタイミングだけ、なんでしょう。打楽器は、決められたリズムのパターンがあるようなので良いとしても、弦楽器は?全部暗譜?覚える時は?

 そして、さらにオケピを見ると、指揮者席がありません。指揮者と楽譜なし?

 はい、さっそく聞いてみましょう。 どんどん図々しくなる那俄性。

 客席から、オケピに身を乗り出して、若目の人に「あのーすいませーん」と話しかけると、こっちに一瞥をくれただけで、すぐに奥へ。

 あら、ご迷惑だったかな?と思いきや、英語の喋れる人を連れて戻って来てくれました。

「すいません、楽譜はないんですか?」

「ないよ」

「台本だけ?」

「台本だけ」

「じゃ指揮者は?」

「指揮者??」

「そう指揮者」

「いないよ」

「どうやってタイミング取るんですか?」

「そりゃ、その時によってだよ」

ほー、そうなんだ。ま、無音状態から、唄と伴奏同時に始まる曲とかは無いようなので、全然大丈夫なのかも知れませんが、一瞬、調味料を正確に測らずに、美味しい料理を作る中華の料理人の姿が浮かびました。大雑把と同時に感覚が鋭いんでしょうか?

 「どっから来たの?」

「日本から来ました」

「音楽やるの?」

「えぇまぁ少しだけ」

「楽しんでる?」

「とっても興味深いです。ありがとう」

 思わずストーリーを聞きそうになりましたが、さすがに「とっても面白いよ!全然意味分からないけど」ぢゃ、ちょっと失礼かな?と思いまして、自重する那俄性。

 さて、幕が上がると、本当の後半。中央に大きな椅子に腰掛けてるカミキリ虫。前の机には「令」の文字が。そして、手錠をかけられた二枚目と娘が、つれて来られます。

 どうみても裁判の場面、捕らえられるのは、この二人だったのでしょうか。

 いや、もう、ストーリーを追うのは止めて、楽しむ事にしましょう。(これ正解。後にこの二人は、当たり前のように家にいた)

 この2幕も1場2場構成で、途中に転換休憩がありました。どうやら、場面ごとに楽しみ人もいるみたいで「あ、そろそろあのシーンだな」と途中から入ってくる人や、出て行く人がたくさんいました。


 しかも2幕から来てる人も、かなりいるようで、2幕開始時には客席の8割がうまってました。アフター6パスポートみたいに、2幕からは半額とかあるんでしょうかね?

 お話しは、どんどん進み、ラストは大立ち回りが演じられます。その際にはアンサンブルのような役者さんも沢山出てきて、2枚目にバッタバッタと斬られます。面白いのは、散々やっつけて、最後の決めのポーズの時には、やられたその他大勢も、立ち上がって一緒に見得を切ります。

 おそらく、次のハケ(袖に引っ込む事です)の為なんでしょうけど、これはこれで、とてもカッコ良かったです。
 
 この格闘シーンは、とても見応えがあり、それぞれにちゃんと見せ場がありました。

 が、主役の女性だけは、刀も槍も持たず、独りで舞台に出てきて、激しく踊ります。これは敵をやっつけてるシーンなのか、彼女の心情を表現してるシーンなのかは分かりませんでしたが、とても引き付けられ、客席も大盛り上がりでした。

 最後は、やっつけられたカミキリ虫が舞台中央で「ワシが間違っていた・・・なぜこんな事をしてしまったのだ・・・」 バタっ

 お父さんが「これにて一件落着」なんて言って、大団円を迎え、華々しく終了です。

 そして、最後の最後で、お客さんの大雑把さが如実に現れます。

 カミキリ悪役が、舞台の中央で独白を始めると「さーそろそろ帰るべ」と、数人のお客さんが帰り出します。そして、バタっと倒れる頃には3割方が、幕が閉まった頃には、なんと半数以上が立って、帰り始めてしまいます。

なので、カーテンコールの幕が上がると、熱狂的なお客さんは花束を渡しに立ち上がってる状態、他のお客さんは、帰りかけてる状態、で、拍手するので、「オールスタンディングオベーション」です。

 が、特に役者も気にする様子もなく「○○さーん!」なんて言われて、手なんか振ってます。

 おそるべし、京劇。おそるべし、香港。

 終演時間、なんと23:00。これにもビックリ。明日仕事があるサラリーマンは観に来れませんね。役者さん達も、これで乗り打ちじゃ大変でしょうに。

 お疲れ様でした。勉強させて頂きました。

 外に出ると、迎えの車に乗る人、バスの停留所に向う人、役者の出待ちをする人、様々です。

 みんな「いやー誰々はやっぱり良いなぁ」「あそこのアレがなー」「なんか食べて行くかー」「今度は・・・」なんて言っているのでしょう。

 観劇後のお客さんの雰囲気は万国共通ですね。

 僕は腹ごなしの為に、開演前に行った「廟街」へ。

 かくして香港二日目の夜は、ふけて行くのでした。

 

 

 


 

でかっ!