16 : ボーフム
- 2010.11.08みのりとダニエルさん~Day:54 Bochum~
カテゴリー:16 : ボーフム ベルリンから列車で西へ、オランダの国境やや手前という所にある街、ボーフムに向う。
このおそらくブンデスリーガーを知るサッカーファンくらいしか名前に聞き覚えのないこの街になぜ行くかというと、ここに四季時代の同僚が住んでいる。
もともと、10月の末くらいにオランダの「ベルヘン・オプ・ズーム」という街にいる、別の友人を尋ねる予定で、どうしたってその手前のボーフム付近を通るなら、せっかくなので寄らせて頂こうという、いつもながらなんとも強引な押しかけなのです。
そんな突然の訪問にもかかわらず、快く泊めていただいたのは、四季で主役もやっていたのでご存知の方もいらっしゃるかも知れません「今井みのり」、今は、アメリカ人の方と結婚して「MinoriTherrien」です。
僕はマンマ・ミーアという演目で彼女と競演させて貰い、そのパワフルな歌声と、グルーブ感溢れるダンスに、本当に憧れた。
ものすごく内輪の話だけど、ミュージカルの演目の稽古をする際、「では○○のシーンから」という言い方をする事が多い。
これが、ナンバーの頭とかであれば、そのナンバー名で通用するのだが、どうしても芝居や、曲の途中の切りの良いところから、という必要も
出てくる。その時に、非正式な「呼称」が使われる。
とある演目では、この今井みのりがきっかけで、全員がお辞儀をするシーンがあったので「みのりお辞儀」という呼称が使われていた。なんと開幕から何年もたった今でも、そのシーンから稽古を始める時は「じゃ、『みのりお辞儀』から!」と言われているらしい。
もうとっくに、みのりはその演目にいないのに、未だに呼称だけは残っている。このエピソードからも分かるように、今井みのりは、そんな風に皆から愛されている人なのです。
ボーフムへは乗り継ぎなしで約3時間半の旅。若干南下するので、少し暖かくなるといいかな、と思っていたら案の定暖かい。
駅までみのりと旦那さんのDaniel Therrienさんが向えに来てくれた。
「今日はバーベキューだよ!」と、貧しい僕の食生活を察してくれたのか、みのり。
大きなステーキ肉を眺めながら「この肉の色と、マーブル状の油。本当にビューティフルだ」とうっとりするダニエルさん。んーアメリカ人だなぁ。
夜の食卓を囲みながら、色々とお話しを伺っていたら、二人は日本の大阪で知り合ったそうな。
僕は全然知らなかったのだけど、ダニエルさんはラスベガス等で活躍されていた、ダンサーさんだった。もちろん、ダンスだけでなく唄も芝居もなんでもこなす、とてもすごい方だった。
そのダニエルさんが、大阪のテーマパークに出演の頃、たまたま大阪にいたみのりと偶然出逢う。
その時、みのりはお店の奥の方、多くの人達の一番後ろにいたにも関わらず、お店に入って来て、みのりの居た集団を一瞥したダニエルさんは人込みを掻き分け、一直線にみのりの元にやって来て「僕の未来の奥さん、電話番号を教えて下さい」と言ったそうな。
それだけなら、おぉ情熱的なナンパだな、という感じだけど、その後本当に結婚しちゃう所がすごい。なんとも映画みたいな話しだ。
そして、現在ダニエルさんは、ボーフムで行われている「スターライトエキスプレス」という演目に出演されている。
ミュージカルファンの方は「わぁ、懐かしい演目だな」とお思いかも知れないが、なんとこの演目、ボーフムでは20年以上前から上演されていて、ギネスの最高動因記録を持っている。なぜ、この地でこの演目がこんなに長続きしているのかは、謎だけどなんとも凄い話だ。
そしてみのりはというと、四季を退団後、ダニエルさんと結婚し、このボーフムに住んでずっと主婦をやっているのだとばっかり思っていたけどなんと、現地で数々のオーディションを受けているという。
みのりは、ドイツ人と日本人のハーフなのだけど、ドイツ語は喋らない。勿論、ボーフムに来てからは勉強中らしいが、それにも関わらず、ドイツでミュージカルやらオペラやらのオーディションを受けまくるという、このパワフルな所が、相変わらずすごい。
そして、つい最近、やっと最終オーディションまで行ったというのが、四季ではアンサンブルと主役も勤めた「ウィキッド」。なんとも運命的な
話だな、と思ってしまう。話しも盛り上がって、夜も更けて来た頃、少しほろ酔いのダニエルさんが「君はなんで辞めちゃったの?」と聞いてくる。
なんとも答えられずに「才能ないからね」なんて言うと、昼間は「辞めたの?そりゃ良かった。こんな大変な仕事無いよ」なんて言ってたダニエルさんが、僕にこんな事を言ってくれた。
「君は、今までやって来た事の全てを、あのクソ重たいバックパックに詰め込んで、その全てを背負って、旅に出たんだろ?そんなのなかなか出来る事じゃないよ。 同じような事をしている人や、口で色々言う奴は沢山いるかも知れないけど、実際にそういう旅を実行するというのは、すごい事だ。 僕は、本当に、誇りに思うよ。」
その時は、何も言えなくて、ただただ黙ってしまったけど、なぜかこれを書いている今、涙が出てきてしょうがない。
こうして書いたものを読み返しても、何を泣く事があるのか、さっぱり分からないけど、何かが報われたような気がして、ただただ嬉しい。
わざわざ僕に、大きい寝室を用意してくれた。何から何まで、ありがとう。
頭も、胸も、お腹も一杯で、眠りにつく。
なんとも贅沢な夜だ。
- 2010.11.08幸運の黒うさぎ~Day:55 Bochum~
カテゴリー:16 : ボーフム 朝、もぞもぞと起き出して、勝手にコーヒーなんか頂いてると、みのりがイングリッシュマフィンのサンドイッチの朝食を作ってくれた。
これがトンでもなく美味しい!いったいいつの間に、こんなに料理上手になったんだろう?いやいや、愛の力とは恐ろしい。
今日は、昼間はお二人とも用事があるので(お忙しい所、本当にすいません)その間、僕は街を散策させてもらう。
このボーフムという街は、住むには最高の街だと思う。
僕は、劇場巡りをする為に、どうしても都心部に宿泊して来たけど、もともと人の沢山いる所が好きじゃない。
かと言って、あまり田舎過ぎると、何かと不便だ。
その点このボーフムは、必要なお店は必要なだけあるし、中心地には公共の乗り物しか入って来れないようになっていて、街はとても静かだ。
そして沢山の教会と、大きな公園、劇場、サッカースタジアムまである。
こんなに静かな街も、サッカーの試合のある時には、大騒ぎになるという。 さすがはヨーロッパ。
ちゃんと楽しみもあって、言う事がない。
良く見ると、家々の屋根には煙突が出ている所が多い。という事は、室内に暖炉なり、薪のストーブなりがあるという事だ。
冬の寒さは厳しいのだろうけど、サンタさんがちゃんと入って来れる、素敵な家だ。
昼過ぎに用事を終えたみのりと合流し、二人で、旦那さんのダニエルさんが出演中のミュージカル「スターライトエキスプレス」の公演を観に行く。
まさかボーフムでミュージカル観劇するとは思ってもみなかった。
劇場までの、落ち葉のじゅうたんがひかれた道を歩きながら、街を色々と案内して貰う。
これは、池のあるとても大きな公園。なんと野生のウサギが住んでいる。
「あ、野良ウサギだ!」
「・・・『野 ウサギ』 ね。」
ちょっと分かりにくいけど、一匹だけ黒い野ウサギがいる。
この子には滅多に会えないらしく、これは相当ラッキーなんだとか。
「きっと良い事があるね!」とみのり。
そして、この予言は見事に的中する。
「スターライトエキスプレス」は、夜、子供の夢の中で、おもちゃの鉄道達が、独りでに動き出してレースをしだす、というお話し。
演者は皆ローラースケートを履いて、舞台だけでなく、客席中にまでひかれているコースを走り回る、という演出だ。
その特殊なつくりゆえに、専用劇場を作らないと、上演が出来ない。そして、専用劇場を作るという事は、長期公演をしないと、全然黒字にならないという事だ。
それにしても、22年というのは、凄すぎる。
特別、ボーフムに列車やローラースケート好きの人達が住んでいるというワケでもないだろうに。
この日も平日夜にも関わらず、8割以上の客席が埋まっていた。観光バスで遠くから来ている一団もいた。これがシーズン中は毎日満席になるという。よっぽど、大事に丁寧に公演を重ねて来ないと、こうはならないだろうな。
僕らの席は、なんと周回するコースの内側にあった。突然のお願いなのに、こんなに良い席を用意して貰えるとは、本当にありがとう。
この席の面白い所は、客席の椅子が回転するようになっていて、お客さんは自由に360度好きな所を観れる。
これが、とてもとても面白い。あんまりはしゃぐと隣の人の足を蹴っちゃうけど。
スターライトエキスプレス、音楽はおなじみアンドリュー・ロイド・ウェバーだ。
今思い出したけど、僕は「エビータ」の稽古中に、一度だけ彼に会った事がある。まぁ、あれはほとんど「見た」という状況かな。
その時は、あの凄く難しいハーモニーに悩まされ続けていた時だったので「面倒くさい唄つくったな、この人は」くらいにしか思わなかったけど、改めて聴くと、彼のメロディは、一度聞くだけでものすごく耳に残る。
ただのおっさんに見えたけど、やっぱり凄い人なんだな、と改めて思った。
この時の主役をやっていた可愛らしい男の子は、ドイツの有名なオーディション番組で審査員に絶賛されて勝ち抜いた、ドイツでは知らない人はいない有名人なんだとか。
確かに、とてもとても上手かった。ラストにとんでもない高音を出していたけど、あれは楽譜にあるのかな?ちょっと尋常じゃない高さだったけど。
みのりの旦那さん、ダニエルさんは案の定とても凄かった。身長は僕より小さいし、年齢も38(だったかな)なのに、とても大きく、とても若く見えた。
やっぱり凄い人は、舞台の空間をしっかり、必要なだけ支配する事が出来る。たとえローラースケート履いてても。
この演目が僕にとって、約1年ぶりのミュージカル観劇だった。久しぶりの舞台は、とても感動し、色々な事を僕に考えさせてくれた。
そして、黒ウサギの暗示したとおり、この観劇中に「ウィキッドオーディション合格」のメールがみのりに届く。
僕らは劇場で、大騒ぎして喜ぶ。
終演後、その知らせを聞いたダニエルさんだけでなく、本番を終えたばかりの、顔見知りの共演者達が、みのりの元に駆けつけては、抱きついて一緒に大喜びする。
やっぱり日本で皆に愛されていた人は、ドイツでも皆に愛されてる。
この時、皆がみのりに言っていた言葉は、昨夜ダニエルさんが僕に言ってくれたものと同じだった。
「I’m proud of you」
直訳すれば「私は貴方を誇りに思う」なんだろうけど、この時、やっと日本語訳では無く、この言葉の意味が、分かった気がした。
日本で一緒に頑張っていた仲間が、ドイツ語も喋れないのに、オーディションにチャレンジして、見事、役を勝ち取った。
僕は、本当に、彼女を誇りに思う。



