27 : ハリウッド

2011.05.04I know ~Day:105 Hollywood~
カテゴリー:27 : ハリウッド

朝5時、むくっと起きる。

昨夜寝る前に、最低限必要な物だけを残して、他は全て荷造りを済ませてある。

必要な物を身につけ、いらなくなった物を処分して、忘れ物チェックをする。

最後に、シーツや枕カバーを外してたたみ、出来る限りベッドを丁寧に整える。

 

もう何度と無く繰り返している、チェックアウトの儀式。

 

 ここは、国際ユースではないので、そんな事する必要は無いんだけど、なんとなくやってしまう。

「泊めて貰ってありがとう」を、細かい行為で表すという、「日本的な」感謝の仕方をやっているつもりなのだけど、たぶんそうは伝わらないんだろうな。

場合によっては「ベットメイク係りの仕事を奪っている」とか言われちゃうんだろうけど、なんとなく「日本人っぽいかな」なんて思って、いつからかやっている。

いつの日か、丁寧に畳まれているシーツを見て、「Oh、ジャパニーズスタイル!」とか言われないかな。 言われないか。

 

 大型スーパーで買ったはいいけど、全然飲みきれなかったビールを、受付の太った女の子にあげて、今度はちゃんとお願いしておいた送迎車で空港まで送って貰う。

あのお喋りな黒人男性の運転かと思いきや、受付の彼女がそのまま車を運転してくれた。

 

 彼女の運転は、極端に右斜線に寄る癖があるので、助手席の僕はとても怖かったけど。

 

 空港への車内で、「ニューオーリンズはどうだった?」等の、お決まりの話の後、

「仕事は何をしているの?」、と聞かれる。

 

 僕は、なんとは無しに、「I was an actor.」と答えた。

 

 Was?

今まで、職業は何かにつけて、何度と無く聞かれてきたけど、僕はいつから過去形で答えてたんだろう?

自然に、サラッと過去形が出てきた事に、ちょっと驚く。 「Was」、か。

変な顔をしている僕に、「私も女優をやってたのよ。」と、彼女が言う。

「本当に?」

「数年前だけどね。NYで、沢山オーディション受けたりしたわ。」

「NYで?そりゃすごい。どうして辞めちゃったの?」

「んー、とっても大変だったし、ストレスでどうにかなっちゃいそうだったの。分かるでしょ?」

「うん、分かる。」 と言った後で、

「ホント、言っている意味は良く分かるよ。」と、ボソっと付け加えた。

 

ぼんやりと、早朝の高速道路を眺めていると、少し、自分のやって来た事を思い出した。

そしてNYで頑張ってた、彼女の姿を想像してみた。

詳しく聞いてないので(そんな英語力も無いし)ほとんど想像というより、妄想だけど、なんだか『しんみり』するような、不思議な気分になる。

 

 そして、さっき自分の言った言葉を思い出して、苦笑いをしてしまう。

『I know exactly what you mean.』 だって。 

ホントかよ、おい。

 

早朝、ガラガラの「ルイ・アームストロング国際空港」に着き、いよいよこの旅、最後の街、ロサンジェルス、ハリウッドに向う。

 

 

 2時間半のフライトでたどり着いたハリウッドは、さすがに大都会で、ニューオーリンズより夏の匂いが強く感じられる。

 

 

とても飛び飛びだけど、これで一応東から西へ、アメリカを横断した事になるのかな。

飛行機の移動は、便利だけど、どうにも実感が薄い。

「移動した実感」だって。そんなの、現代に必要ないか。

 

宿は、有名な通り「ハリウッド・ブルーバード」のすぐ近く、評価のとても高いホステル。

 

大きなキッチンと冷蔵庫があって、朝ごはんはパンケーキ食べ放題、近くに大きなスーパーもあり、少し歩けば、遠くにハリウッドサインも見える。

どこの国際ユースにもあるけど、宿で予約出来るツアーが毎日沢山あって「ハリウッドスターの豪邸ツアー」とか「ビーチで夕焼けをツアー」とか色々ある。

最後の宿が、変な所じゃなくて良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







スーパーで食料を買い込み、宿周辺をうろついて、おそらく最後になるだろう両替を済ます。

 

ここが、旅の最後の街なんだな。

旅の目的地として、目指してきたワケではないのだけれど、色々と周って最後にたどり着いた、終着地がここだ。

西回りで世界一周を考えると、なんとなく最後はアメリカ西海岸になるし、アーティストに会う旅なら、ハリウッドが良いんじゃないかな、くらいの気持ちで選んだ街。

 

恥ずかしながら、自分の小学校時代の僕の夢は、映画監督になる事、だった。

だけど映画を撮るためには、演劇を学ばなくてはならないと聞いた少年時代の僕は、「あんな恥ずかしいものトンでもない」と思い、すぐに断念する。

それでも、紆余曲折を得て、最終的に「トンでもなく恥ずかしい」役者をやろうと思ったんだから、変な奴だよな。

 

今でも「死ぬまでに、一本くらいは映画を撮りたいな」と思っているけど。

 

そんな僕なのだから、ここが最後の街ってのも、意外にあってるのかも知れない。


ここで、プレゼントリレー、最後の一人に会って、僕の旅を終えなくちゃならない。

そして、何かしら結論めいたものを出さなくちゃならない。

 

『I know exactly what you mean.』 なんだろ?



2011.05.05ハンプティ・ダンプティ~Day:106 Hollywood~
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ヨーロッパでの滞在では、ほぼ半分くらい国際ユースホステルに泊まってたけど、朝食はどこも似たようなものだった。

大体は、コーヒー、シリアル、パン、ジャムとバター、運が良ければオレンジジュース、といった感じだった。

そこに、ハムとか、ヨーグルトがあると、「おぉ、やるじゃないか」なんて思う。

 

今までで一番豪華だったのは、ベルリンの国際ユースで、パンは5種類、ハムが3種類に、サラミ、ヨーグルト、フルーツまであった。

こうなると、貧乏旅行者の我々としては、「よし、喰い溜めだ!!」とばかりに、可能な限り、お腹に詰め込む。

食べ終わると、「ふう、これで夜まで持つかな」、なんて思うけど、どうしたって、バス代をケチったりして、一日中歩き回ると、お腹が減る。

仕方なしに、3時ごろ安いドネルケバブサンドかなんかで、どうにか夜までしのぐ。

夜になったら今度は、「明日の朝は、ちゃんと朝ごはんがあるぞ。」と、励ましながら、安いビールでごまかす。

 

朝起きて、また、ドカ喰いする。

朝食が豪華でなくても、「ま、タダだし」とばかりに、鳥の餌のようなコーンフレークを詰め込む。

 

そして、それぞれの街で一回くらいは「せっかく来たんだし」と、外食をする。

ほとんどが、僕の普段の食事量2人前くらいの、肉料理が出てくる。

残すなんて勿体無い、とばかりに、無理やり食べる。

 

結果、太った。

取ってるカロリーは大して多くないだろうし、沢山動いているんだけど、数年ぶりに太った。

野菜が足りないのか、喰い溜めがいけないのか、肉食が駄目なのか。

 

なんとも変な話だけど、「貧乏で、お金をケチると、太る」、という構図が出来上がる。

どうやら、僕は野菜や魚がない国では、暮らしていけそうにないな。

 

なんだっけ?

そう、朝ごはんの話だ。

 

今回の宿をネット予約した時「朝食はパンケーキ食べ放題!」と書いてあり、

「ほー、そりゃすごい。さすがアメリカ。パンケーキと来たよ!」なんて思ったけど、同時に「でも、食べ放題ってどんなシステムだ?」と不思議に思っていた。

 

朝起きて、焼きたてのパンケーキがズラっと並んでいるのを期待しながら、キッチンに行ってみると、誰もいない。

あれれ?食べ放題は?と思って、8個口もあるコンロを見てみると、ラーメン屋の寸胴のような鍋に、なみなみとパンケーキの生地が入れてあった。

 

どうやら、「どうぞご自由に。好きなだけ焼いて、好きなだけお食べなさい」という事らしい。

いったい、どれだけの量の粉と、牛乳と、卵が必要なんだろうか?

まさか、粉と水だけ、って事は無いよね?・・・あるのかな。

 

「おし、パンプティ・ダンプティみたいになるまで、喰ってやるぞ」、と思うも、パンケーキなんて、そう食べれるものじゃない。

普通に、大きめのを一枚食べて、ギブアップ。

僕は、「LOST」の、ヒューゴみたいには、なれないだろうな。

 

 

昨日の晴天とは打って変わって、今日は朝からしっかりと雨が降っている。

雨の中、出歩く気にもなれないので、ずっと部屋でブログを書く。

 

雨の日に書いても、晴れの日の日記は、スカッと晴れたような文章になる気がする。

逆に雨の日の出来事は、どんなに明るい内容でも、どことなく湿っぽい雰囲気になる気がする。

「おほほ、そんなたいした文章じゃねーやな」とも思うけど、本当に正直に言うと、少なくとも僕は、そんな気がする。

 

外の雨の音を聞きつつ、僕は自分のベッドの上で、トロトロとキーを叩く。

 

昨日、この街に着いたけど、「さあ、いよいよ最後の街だ!」という気持ちは、あんまり無い。

初めての海外で、危ない目にも遭わず、片言の英語で、なんとかここまで立ち回って来たのだから、達成感のような物があっても良いと思うのだけど、ちっとも無い。

代わりに、なんとも言えない不安感が、身体の至る所に、ぎっしりと詰まっているような気がする。

 

一瞬いつもの、「プレゼントリレーの人に会えるかどうか」、の不安なのかな、と思ったけど、どうやらそうでは無いらしい。

この企画、最初の方は「なんとか見つけなくちゃ」と無理やり気味に、至る所で、色々な人に話しかけてたけど、途中から強引に行くのをやめてしまった。

別に諦めたわけでは、決してなく「会わなくちゃいけない人には、自然と会える」と思ったからだった。

こうやって書いてると、「なんとも都合の良い考え方だな」と、自分でも思うけど、ヨーロッパの途中くらいからそう思い始め、NYで確信めいたものを得た気がする。

特に、アメリカでは英語も通じるし、けっこうノリも良いだろうから、リレーの人数を増やす事も出来たかもしれない。

でも、時間をかけてその人と話しをして、本当に渡したいと思った人に、受け取って頂ければ、と思うようになってしまった。

なので、「最後の一人を、3日間で見つけなきゃ」というような焦りは、不思議と無い。

 

じゃ、この終わりが近づくにつれて増す不安は、なんなんだろうな。

ま、それが何かは、とっくに分かっているんだけど、雨の日の、ドミトリーのベッドの上で、一人、それと向き合うのは、ちょっと大変そうだ。

 

結局夜まで、不安から逃げるように、ひたすらベッドの上で、ブログを書き続けた。

雨はずっと降り続いている。

 

雨の日でも、それなりにハリウッドを満喫したらしい人たちが、戻って来て、宿は賑やかになりつつあった。

僕は、キッチンで夕食を作りながら、寂しいような、哀しいような、とても不思議な気持ちになる。

 

ふと、ハンプティ・ダンプティの詩を思い出してみた。

 

ハンプティ・ダンプティが 塀の上

ハンプティ・ダンプティが おっこちた

王様の馬みんなと 王様の家来みんなでも

ハンプティを元に 戻せなかった

 

明日の朝のパンケーキの事を考えながら、思う。

へんてこな詩だな。


2011.05.06Keep Moving~Day:107 Hollywood~
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朝、プレゼントリレー3人目、ミラノにいる原田美欧さんからメールが届いた。

スカラ座の新シーズンが、ワーグナーのオペラ、『ワルキューレ』で開幕し、なんと原田さんは、その前日に行われた『Waiting for Wagner』という公演で、スカラ座デビューを果たしたそうだ。

「男性6人、女性6人の約5分の作品です。私は身長で選ばれた気がします。」なんて謙遜しているけど、ミラノスカラ座ともあろうものが、身長だけ選ぶワケがない。

本当におめでとうございます。これからも、活躍を期待してます。

 

さて、僕も、頑張らないとな。

 

昨日の日記で、「会うべき人とは、会える」みたいな事を書いたけど、この原田さんなんて、まさにそんな感じの方だった。

原田さんの貝殻の御守りは、今、南しずかさんの写真となって、僕の手元にある。

さて、これを誰の手に。

 

と思っていたら、Twitterでメッセージが届いた。

友達の知り合いが、今ハリウッドの、しかも宿のすぐ近くにいるので、せっかくなのでお茶でも、という内容だった。

彼女が、ハリウッドで何をしているのかは全く知らないけど、思わず「ほらね」と思ってしまった。

なんとも都合の良い解釈だな、と思われるだろうけど、僕の中では「きっと会わなくちゃいけない人なんだな」とすぐに感じた。

ずっと独りで旅をしているせいか、本当に直感的に、こう信じ込んでしまう。

そして、たぶん外れてないと思う。

 

メールのやりとりをして、待ち合わせ場所を決める。

 

彼女も実は元劇団四季で、在籍していた時期も被っているのだけど、例によって出演していた演目がまるで違うので、まったくと言って良いほど面識が無い。

たぶん、廊下ですれ違ったくらい。

そんな仲でも、いざ外国の同じ街にいるとなると、急に親近感が湧き、ぜひ会いましょうとなるから、面白いもんだなと思う。

 

昨日と同じような雨の中、ハリウッドハイランドで、待ち合わせをする。

もう日本語忘れてて、全ての会話が英語だったらどうしよう、と思ったけど、会ってすぐに僕の英語力を察してくれたのか、すぐに日本語に切り替えてくれた。

良かった良かった。

 

案の定というか、僕にとって好都合な事にというか、彼女は四季を辞めて、しばらく悩んだ後、ハリウッドに挑戦する事に決め、ロスにやって来たのだと言う。

すでに、ダンスのステージや、いくつかのショートフィルムやCMに出演していて、結果を残している。

どうしてこうみんな凄いんだ?まったく、自分がよっぽど駄目な奴に思えてしまうな。

 

オランダのルーベンや、NYの由水や猫さんみたいに、彼女はとても詳しく、ハリウッドで挑戦する事について教えてくれた。

そして、僕の旅の話をとても興味深く聞いてくれた。

久しぶりに、僕の脳みそが、もやのかかっていた部分が、ぐにぐにと動く。

 

「で、日本に帰ったら、また俳優を続けるんですか?」

「実は、それを考える旅なんだ。もういい加減結論を出さなくちゃいけないんだけどね。」

「じゃ、俳優をやらないとしたら、何をするんです?」

「え?」

「・・・え?」

 

この時、僕は始めて自分が「俳優をやらないとしたら」の場合の事を、全く考えて無い事に気がついた。

キョトンとしてる僕を見て、彼女は笑い、そして、、

「なんだ、じゃもう決まってるんじゃないですか」と、言った。

 

仕事終わりで疲れているだろうに、とても長い時間お付き合い頂いて、とても多くの事を教えてくれた。

本当にありがとう。

 

最後にハリウッドお勧めの場所を聞いたら、いくつか教えてくれ、一押しの場所として、

「すぐそこのグローマンズ・チャイニーズシアターにハリウッド俳優の手形や足型のプレートがあるんです。右奥にジョニー・デップのがあるから、絶対に見るべき!」

と、興奮気味に教えてくれた。

 

彼女と別れた後、まだ降り続く雨の中、僕は言われたとおり、チャイニーズシアターに行ってみた。

ちょっと目立たないところにあるせいか、ジョニー・デップの手形の周りにはあんまり人はいなかった。

 

彼の映画を観たのは、何が最初だったかな?「シザーハンズ」だったか、「ギルバートグレイプ」だったか。

 

ジョニー・デップは、自分の出た作品の試写はおろか、出来上がった作品のほとんどを観ないのだと言う。

理由は、「撮り終わった時点で、全て終わってるから」、だとか。

これを聞いた時、僕は「桜井章一」さんの、自分のやった事に対して見返りを求めず初心に立ち戻る、という「土に還る」考え方に近いのかな、と思った。

 

この手型を雨の中眺めていたら、以前見た「Inside the Actors studio」(NHKでのタイトルは「アクターズスタジオ・インタビュー」だったかな)での、ジョニー・デップのインタビューを思い出した。

「僕らは、自分達の一呼吸一呼吸が、授かったものだと忘れがちだ。

 当然のことのようで感謝などしない。

 でも、ルーマニアのジプシーは、一瞬を大切にして、一息一息に感謝していたよ。」

 

そんな番組を見た事も、インタビューの内容も、すっかり忘れていたけど、今ここで、彼の手形を見ていると、ふいにその言葉がよみがえってくる。

人間の脳って、本当に不思議だな。

 

番組の最後に、アクターズスタジオの学生達の質問に答えるところで、「これから挑戦する若い俳優へ、何か助言を」と言われて、確かこう答えてたと思う。

 

「人が何と言おうと、そんなの関係ない とにかく前へ突き進め」

 

この番組の中では、全体的にゴニョゴニョっと喋っていたけども、ここだけは僕の耳でも聞き取れた。

 

「Just keep moving before.」

 

「前へ突き進め」というのと、ちょっとニュアンスが違うような気もする。

あの落ち着いたトーンで言われると、「ただ前へ歩き続けろ」という風に、僕には聞こえた。

 

Just keep moving before.

 

「keep moving」って所がポイントだよね、きっと。

 

 

雨はやみつつあるけど、またすぐに降りだしそうだ。

 

旅の終わりまで、あと2日。